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俺流物語|NY編 第3話「語録、試される」
バズれば称賛される。けど、それはほんの一瞬の話や。 笑ってくれる奴がいれば、必ず茶化す奴もいる。救われた人がいれば、笑い飛ばす人もいる。 ニューヨークという巨大な器は、善意も悪意も同じくらい受け入れてくる。 だからこそ、試される。本物か、まやかしか。言葉か、ただの文字か。語録は今、“覚悟”という名の試練に立ち向かう――。 ニューヨークの地下鉄に、語録が染み込み始めていた。 始まりは、小さなステッカー。 だが今では、SNSで《#家元語録》のタグが連日踊り、街中の地下鉄ホームや柱に貼られた言葉が、人の足を止め、心を動かしていた。バーDIOにも変化が起きていた。語録Tシャツを求めてやって来る若者たち、言葉を読みにだけ立ち寄る者もいる。カウンターには、語録ノートをめくる手と、それを食い入るように見つめる眼差し。 だが―― 世の中はいつだって、肯定だけで回ってはいない。 「なんやこれ?ウケ狙いのポエムやろ」 「言葉で救われるとか、中学生までで終わりやで」 語録に心を打たれた者たちと同じだけ、冷笑する者たちも現れた。そしてある朝。SNSに一枚の写真が投稿される。それは、地下鉄の柱に貼られた語録ステッカーに、赤いスプレーで大きく書かれた文字。 ――《FAKE》 「これ、マジでムカつくっす……!」 バーの奥、作業場にいたマスターは、怒りに震えてスマホを家元の前に置いた。画面には拡散された投稿と、それに続くコメントの嵐。 『ポエム商法乙』
『心に刺さる(笑)』
『また流行りのスピリチュアル』 マスターの拳は震えていた。 「語録、バカにされてますよ。『気取った自己啓発』とか、『誰でも書けそう』とか、言いたい放題です!」家元はちらと画面を見ただけで、何も言わず、語録ノートを閉じた。 「……ええやん」 「ええって……なにが……!?」 「“語る覚悟”には、“笑われる覚悟”も含まれとるんや」 マスターは一瞬、言葉を失った。 「そもそもな、ほんまに心に届いた言葉は、笑う余裕なんか与えへん。けど、届かん奴には、そもそも響かん。しゃーないことや」 静かなその言葉に、マスターの怒りは少しずつ熱の向きを変えていった。拳を握る感触が、“怒り”から“誓い”へと変わっていくのを感じながら。家元は黙って立ち上がり、Tシャツの前に向き直った。刷る準備を始めながら、独り言のように呟く。 「……バカにされるくらいが、ちょうどええ」 その言葉をTシャツにプリントする。インクを乗せるたびに、拳のような想いが乗っていく。 ――《折れとる骨でも、踏み出せる足はある》
――《信じる奴だけが、立ち直れる》
――《捨てたフリして、拾ってる。それでええ》
――《叫べ、黙ってたって伝わらん》
――《真剣に生きてる奴ほど、笑われる》 マスターが奥から顔を出した。 「家元……それでも、やっぱ悔しくないんすか?」 家元は刷り終えたTシャツを持ち上げ、インクの乾き具合を確かめながら答えた。 「悔しいで。悔しいに決まってるわ」 「ワシの言葉を“ネタ”扱いされるんは、心を削られるような気分や」 マスターは黙って聞いていた。 「けどな、語録ってのは、ただの言葉やない。“誰かがもう一回、生きようとする背中”や」 「軽く見られたなら、それ以上の重みで返すだけや。言葉が軽く聞こえるなら、ワシが“重く生きる”。それが、ワシのやり方や」 ――《軽く見られてからが、本番や》
――《踏まれても、刷り直せばええ》 その日の夜、バーDIOの前に現れたのは、金髪にサングラス、ピアスだらけの若者だった。肩で風を切りながら、語録Tシャツのラックを小馬鹿にしたように見回す。 「へぇ。これが話題の“ポエムT”か」 マスターが立ち上がろうとした瞬間、家元が静かに手を出した。止まれ、という合図だった。 そして一歩前に出る。 「お兄ちゃん、そう言いながら……“欲しそう”やな」 「は?いや、別に……」 「どの語録が気になったんや?」 男は目をそらしたまま、言葉を飲み込んでいたが、やがてぽつりと答えた。 「……『泣け。けど立て』ってやつ」 家元は小さく笑った。 「せやろ?」 そのまま、Tシャツを一枚手に取り、男の前に差し出した。 「“笑いながら買った”でも、“泣きながら着た”でもええ。語録は、着たやつのもんや」 「……」 「けどな、そのTシャツ、洗濯するたびに、お前の中で意味が変わる。その変化を受け止める覚悟があるんやったら……持ってけ」 沈黙のあと、男はTシャツをじっと見つめ、やがて、ふっと肩の力を抜いた。 「……これ、くれや!」 マスターは思わず吹き出した。 「結局欲しいんやないかい!!」 家元も笑った。ただ、その目は外さなかった。男の視線の奥にあった、わずかな迷いと、それでも消えかけた炎を見逃さなかったからだ。 バーDIOの奥で、またひとつ、語録が火を灯した。 ――《疑う前に、着てみろ》
――《着るってことは、向き合うってことや》 語録は、笑われることを恐れない。むしろ、笑われた後にこそ強くなる。それでもなお届くために、今日もまた刷られ続ける。 夜のニューヨーク。語録のTシャツがまた一人の背中を押し、地下鉄の柱には、また新たな言葉が貼られた。 そのすべてが、“誰かの朝”を変えるために。 この物語は、俺流総本家の歩みをもとに創作したフィクションです。登場人物・団体・出来事の一部には物語上の演出が含まれます。語録、試される







