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俺流物語|NY編 第7話「マスター、迷走する」

俺流物語|第二章 NY編|第7話

マスター、迷走する

俺流物語 NY編 第7話 拡大路線をめぐり衝突する家元とマスター

光が強くなるほど、影も濃くなる。

タイムズスクエアに語録が映し出されたその日から、“注目”という名の波が押し寄せた。

マスターはその波に乗ろうとした。「広げたい」という想いと、「売りたい」という欲望。その境界線を、見誤ったまま――。

語録は、ただの言葉やない。背負うもの、刻むもの。その意味を、今一度問われる夜が来た。

語録Tシャツがタイムズスクエアに映し出された、あの日を境にバーDIOには、日を追うごとに問い合わせが殺到した。

「ウチでこのTシャツ、全国展開したいんです!」

「コラボしましょう!“語録×ファッション”って、絶対イケますよ!」

「パリコレに“言葉”を持ち込んでみませんか?」

メール、DM、電話。あらゆる業界から、“夢”と称した“打算”が押し寄せてきた。マスターは、その反響に心が浮ついていた。

「家元……ホンマにすごいことになってきたっすよ……!メディアもSNSも、全部語録の話題で持ちきり!これ、一発当てた感じっすよ……この波、乗るべきじゃないすか?」

家元はバーの隅で語録ノートを閉じ、ゆっくりと立ち上がった。

「“波”か……」

カウンターの奥から、Tシャツを一枚取り出し、マスターの胸に放った。そこに記されていたのは、ただ一言。

――《売るな。刻め》

「語録は“商品”やない。“刺青”や。皮膚やのうて、魂に刻むもんや」

マスターが息を飲む。

「一文字に、誰かの人生が詰まっとる。“売れる言葉”じゃなく、“生きる言葉”や。流行で書いた言葉は、風に流されて終わりや」

「けど……広めた方が救われる人も増えるんじゃないですか?」

「そやな。でもな、“広げる”ってのは、“雑にする”ことやない。刺さる言葉は、絞った言葉や。何度も削って、濾して、血の代わりに魂を注いで書く。それが語録や。“密度”が命や。広げたい気持ちはええ。でも、軽くしたらあかん。軽くした瞬間、それはもう“語録”やない」

その夜、バーにファッション誌の編集者が訪れた。髪は鮮やかな赤、手にはブランドバッグ。開口一番、笑顔で切り出した。

「あなた方のTシャツ、今一番“旬”なんですよ。うちのインフルエンサーと組みません?“#語録OOTD”とかでバズらせましょう!」

家元は何も言わず、静かに席を外していった。マスターは、迷った。目の前には、注目と賞賛と“売上”の道があった。家元がいないその隙に、編集者が差し出した企画書にサインをしてしまった。軽い気持ちで。“これはきっかけにすぎない”と、自分に言い聞かせながら。

――

数日後。

街のセレクトショップのショーウィンドウに、語録Tシャツが飾られた。だがその胸元にあったのは——

《やめたら終わりや → GIVE UP IS NOT COOL》 《怒ってへんけど切れてんねん → I'M NOT MAD, JUST DONE》

どこかで見た風景のようで、まるで別物だった。言葉が、薄かった。軽かった。“意味”じゃなく、“言い回し”になっていた。

「……これ、語録やない……ただの“翻訳風”や……」

マスターの顔から血の気が引いた。それは、自分が守るべきだったものを、自分で崩した瞬間だった。

その夜。バーに戻ってきた家元は、黙ってカウンターに座った。コップに水を注ぎ、一口飲んでから、静かに言った。

「マスター、お前に語録を刷る資格があるんか?」

その言葉は、刃のように鋭く、しかし静かだった。

マスターは、堪えきれなかった。

「……すいません……でも、俺、売れたかったんす!注目されて、評価されて……俺の語録が、世界に行くって、そう思ったんす……!」

家元は何も言わず、ノートを破り、一枚の紙をテーブルに置いた。そこには、力強く書かれていた。

――《語録は、ウケるために書いたら終いや》

「“ウケたい”で書くな。“届けたい”で書け。言葉の重さは、書いた人間の“覚悟”の重さや。軽い言葉は、届いたふりして、すぐ消える。重い言葉だけが、残るんや」

マスターは唇を噛みしめながら、その紙を両手で握り締めた。

「……でも、もし“売る”ことで語録が広がって、救われる人が増えるなら、それは……それでもダメなんすか?」

家元は目を閉じ、息をひとつ、長く吐いた。

「“広がる”ことと、“薄まる”ことは違うんや。語録は、“薄く広がる”もんやない。“深く刺さる”ためにある」

「広めるな、とは言わへん。けどな、薄めるな。“言葉”は、“当てる”もんやない。“支える”もんや。その覚悟を忘れた瞬間、語録はただの“売り文句”になる」

沈黙。マスターは崩れ落ちるように椅子に座り、天井を見上げた。

「……俺、何を着てたんだろうな……」

家元は黙ってプリンターの前に立ち、一枚のTシャツを刷り始めた。機械が動く音が、深夜のバーに響く。

――《迷うな。信じたら、刷れ》

家元はそのTシャツをマスターの前に差し出した。

「次、これを着て、店に立て。語録は“売る”んやない。“背負う”もんや。背負った時にだけ、誰かの心を押せるんや」

マスターは無言でTシャツを受け取り、その文字をまっすぐに見つめた。少しだけ、目が赤くなっていた。その背中を見送りながら、家元は再びノートを開き、新たな語録を記した。

――《商売にするな。志事にせえ》

その文字に、にじんだインクが“覚悟”の証のように揺れていた。

たかがTシャツ。されど、語録。かつて、街角でひとり語録を叫び、Tシャツに命を刻んだ男がいた。名前は「家元」。

彼の作るTシャツは、ただの服じゃない。着る者の人生を変え、見る者の胸に火をつける――。

『俺流物語』は、言葉を武器に世界を揺らすアウトローの半生を描いた熱血語録ドラマ。笑って、泣いて、叫んで、心をぶん殴られる準備はできているか?読めば“語録”が欲しくなる。観れば“魂”が燃え上がる。

物語はここから始まった!!

この物語は、俺流総本家の歩みをもとに創作したフィクションです。登場人物・団体・出来事の一部には物語上の演出が含まれます。

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