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俺流物語|NY編 第11話「誰のために刷るのか」

俺流物語|第二章 NY編|第11話

誰のために刷るのか

俺流物語 NY編 第11話 雨の地下鉄ホームで誰かのために言葉を書く家元

――声が届かなくても、伝わることがある。

雨の音がすべてをかき消しても、そこに立ち尽くす者の“覚悟”は、かき消されはしない。誰かのために書いた言葉が、誰かの心に灯をともす日が来るのなら――語録はまだ、生きている。

雨が降っていた。ニューヨークの地下鉄ホーム。錆びた鉄骨が雨粒を弾き、アスファルトに打ちつける音が響いていた。その音は、まるで都市そのものの心拍のようだった。誰もが肩をすぼめて足早に通り過ぎる中、ホームの端、ひとりの男がベンチに腰を下ろしていた。

家元だった。

濡れたTシャツの裾。泥の跳ねた作務衣のズボン。草履の足元には水たまり。彼の姿は、どこか“異物”だった。だがその背中は、どんな広告看板よりも力を持っていた。肩から提げた古びたショルダーバッグを開き、ゆっくりとボロボロのノートを取り出す。カバーの革は黒ずみ、角は丸まっていた。ページは水を吸って波打っていた。それでも、迷いなく家元は開いた。

――《響かんでもええ。叫び続けろ》 ――《値段じゃない。“誰に届いたか”で勝負しろ》

インクは滲み、字は踊っていた。だが、その言葉の重さは、雨にも薄まらなかった。

「……誰のために刷るか。それがわからんようになったら、語録はただの飾りや」

その声は雨音にかき消された。だが、彼の心にとって、その一言は“宣誓”だった。彼は、語録を売るためにここへ来たわけではなかった。バズらせるためでも、フォロワーを増やすためでもない。

ただ——

――誰か、ひとりの背中を押したい。

それだけだった。

そのときだった。

「……それ、あなたの語録っすか?」

声をかけてきたのは、濡れたフードをかぶったままの少年だった。彼は一瞬、通り過ぎようとした足を止め、ゆっくりと家元の横に腰を下ろした。

「……どこで見た?」

家元は顔を向けずに訊いた。

「駅の柱に貼ってあった。“笑われたまま終われるか”って。 最初は、なんだこれ、って思った。でも、毎日見てたら……変わったんすよ。なんか、勝手に励まされてて」

少年は15、6歳。痩せた体、濡れたパーカー、震える指先。だがその目には、火のような“何か”があった。

「俺、歌やってるんすよ。でも……誰にも認められない。 歌詞がダサい、声が変、やめちまえって、SNSでボロクソに叩かれて……」

唇を噛みしめるその姿に、かつての自分を見た気がした。

「仲間にも笑われて。でも……この言葉、“刺さった”んすよ」

家元は黙って立ち上がり、鞄の奥から一枚のTシャツを取り出した。薄いビニールに包まれた、雨を吸った白いTシャツ。その胸には、滲むような文字が刻まれていた。――《立つな。吠えろ。黙ってるうちは、敗者や》

少年はそれを受け取った。まるで神様から何かを授かったかのように、胸に抱えた。

「……え、これ……本当にいいんすか?」

「この言葉を、“自分のもん”にできるなら、ええ。これはもう、お前の“戦闘服”や」

少年は、その場でフードを脱ぎ、濡れた髪をかき上げた。雨で濡れたままの顔には、確かに“決意”が宿っていた。

「……俺、変わりたい。いや、変わります」

「変わるんちゃう。戻るんでもない。“生き直す”んや。語録ってのは、そういうもんや」

電車の音が近づいてきた。地下を駆け抜けてくる轟音が、ホームを揺らす。それでも、少年の目は、家元の言葉から逸れなかった。

「俺、やります。これ着て、初めて“自分の曲”を堂々と歌ってみます」

「そのとき、“自分で選んだ言葉”を信じろ」

電車が止まり、ドアが開いた。少年は一礼して乗り込み、振り返って——涙ぐみながら、こう言った。

「……ありがとう」

その声は、かすれていたが、確かに“届いた”。

翌朝。バーDIOの店内。店はまだ閉まっていたが、照明だけが点いていた。マスターはスマホを片手に、カウンターで画面をじっと見ていた。画面に映っていたのは、少年の自室と思われる空間。布団の上に正座し、Tシャツを掲げる彼の姿。

震える声で語っていた。

「……俺、今日から変わります。これは、俺の言葉や。誰にも笑わせない。俺が“選んだ”語録だから」

背景には安いポスターとギター。部屋の片隅には、雨に濡れたフードが丸めて置かれていた。マスターはその姿に、何も言えなかった。ただ、胸が熱くなった。再生数は、加速度的に増えていった。数分もしないうちに、SNSでは関連ワードが急上昇していた。

――《#俺流物語》 ――《#語録で救われた》 ――《#Tシャツが刺さる時代》 ――《#俺の言葉はここから始まった》

ひとつ、ひとつ、心を震わせる言葉でつながっていく。ツイートの中には、こんな言葉もあった。

「このTシャツの言葉で、昨日の自分に勝てた」

「“吠えろ”って書いてあって、泣いた」

「俺も語録着て、ライブ行ってくる」

語録は、また歩き出していた。バズでも、流行でもなかった。それは、“救われた”という、生の感情だった。マスターはスマホを胸に置き、ゆっくりと息を吸った。そして、つぶやくようにひとつの投稿を打った。

【@DIO_BAR: 「語録、戻ってこい」】

それは、指が震えるほどの“願い”だった。

店の外。雨は止んでいた。

雲の切れ間から射した陽の光が、ビルの壁を照らしていた。長く伸びた影が、まるで語録そのもののように、街の通りを横切っていく。それは、“次の言葉”が生まれる兆しだった。

たかがTシャツ。されど、語録。かつて、街角でひとり語録を叫び、Tシャツに命を刻んだ男がいた。名前は「家元」。

彼の作るTシャツは、ただの服じゃない。着る者の人生を変え、見る者の胸に火をつける――。

『俺流物語』は、言葉を武器に世界を揺らすアウトローの半生を描いた熱血語録ドラマ。笑って、泣いて、叫んで、心をぶん殴られる準備はできているか?読めば“語録”が欲しくなる。観れば“魂”が燃え上がる。

物語はここから始まった!!

この物語は、俺流総本家の歩みをもとに創作したフィクションです。登場人物・団体・出来事の一部には物語上の演出が含まれます。

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