特集ページ
俺流物語|日本編 第4話「元カノ登場!語録で救え、恋と過去!」
言葉は時に、過去さえ呼び戻す。忘れかけていた“あの時の気持ち”を、語録はそっと胸の奥に投げかけてくる。 逃げていたのは、あの人か。それとも、自分自身か。 夕暮れ時のバーJOJO。 客もまばらな平日の午後、家元はいつものようにカウンターの端で、ノートに語録を書き溜めていた。 「家元さぁん、今日の語録は?」 マスターがアイスコーヒーを持ってきながら覗き込む。 ページにはこう記されていた。 ――《諦めるな。間違ってたのは選んだ日じゃなく、やめた日や》 「これは……けっこう重めっすね」 「今日の風がな、ちょっと湿っぽい。そん時は“思い出系”が降りてくる」 そのとき、バーのドアがカラリと開いた。 「……お久しぶり」 立っていたのは、どこか懐かしい空気を纏った女性だった。黒のジャケットにジーンズ、くたびれた鞄を提げたその姿に、家元の手が止まる。 「……里菜」 空気が一変した。 マスターは驚いた表情で二人を見比べる。 「え、知り合いっすか……? え、もしかして、元カノ?」 「元」 「元や」 二人の声が重なった。 里菜はカウンターに腰を下ろすと、少し笑って言った。 「この店、たまたま入っただけなんだけど……あなたがいるとはね…」 「匝瑳で“語録Tシャツ”って聞いたら、大体ワシやからな」 「……変わってないね。あなた、昔からそうだった。語録で人を黙らせるのが得意だった…」 マスターは空気を察して、そっと奥のキッチンに引っ込んだ。 沈黙のあと、里菜が口を開いた。 「今、SNSで“家元”って話題になってるの見て……たまたま目にしたの。《無職ちゃう。まだ途中や》ってTシャツ。……泣いたよ」 「泣くほどのもんかいな」 「泣くほどよ。私さ、東京のデザイン会社辞めて地元戻ってきたの。10年、ずっと頑張ってたけどさ。頑張りすぎて、壊れた。もう何もやる気しなくなって、1ヶ月ずっと家に引きこもってた」 家元は黙って、グラスの氷をカラリと鳴らす。 「……あの時、貴方が“お前の夢は俺が着て歩く”って言ったの、覚えてる?」 「貴方がくれた初めてのTシャツ、今でも持ってる……あれ、私の人生のピークだったな」 里菜の目に、薄く涙がにじんでいた。 その夜、バーの営業終了後。 店内には、家元とマスター、そしてまだカウンターに残る里菜の三人だけ。 「……俺、ちょっと言っていいすか」 マスターが思い詰めた顔で言った。 「俺、ずっと前から里菜さんのこと、知ってたっす。SNSの投稿とか、見てた。絵も言葉も、すごく刺さってて。何度も救われたっす」 里菜は驚いたように目を見開いた。 「だから、今日こうして会えて……何かしたいって思うっす。でも、俺には語録もないし、絵も描けない。あるのはこのTシャツだけっす」 マスターは、着ていた語録Tシャツを脱ぎ、里菜に手渡した。 ――《笑われたまま終われるか》 「俺、家元みたいにはなれないっすけど……この言葉、俺が本気で信じてる一枚っす」 里菜はTシャツを胸に抱き、声を詰まらせながら笑った。 「……ありがと。なんか……また描いてみようかなって、ちょっと思った」 店を出ていく里菜の背中を、家元とマスターは黙って見送った。 「……昔はな、里菜の夢を着て歩くって言うたけどな」 家元がぽつりと言った。 「今は、自分の夢を背負うんが精一杯や」 「でも、その夢は周りの人を背負ってるっすよ。今日もまた、ひとり救ったっす」 家元は、夜風に髪をなびかせながら、ゆっくりとうなずいた。
そして、新しいページをノートにめくる。そこに記した言葉は ――《夢をしまうな。誰かがまだ、それを着たいと思ってる》 この物語は、俺流総本家の歩みをもとに創作したフィクションです。登場人物・団体・出来事の一部には物語上の演出が含まれます。元カノ登場!語録で救え、恋と過去!







